自分が思っている以上に姿勢や表情を見られている!
初対面の人に会うのが苦手だという人は多いだろう。相手に良い第一印象を持ってもらうためには、どうすればいいのか? そこで重要なポイントは、話の内容もさることながら、それよりも先に相手の目に入る姿勢や表情などだ。
ネガティブな第一印象を覆すのは難しい!
初対面の場面で、相手が自分に対して抱く印象は、たった1秒で決まる。こんなことを言うと、皆さんは「そんな大げさな」と思われるかもしれません。でも、これは本当です。
米国の心理学者のティモシー・ウィルソンは、人は1秒間に両目で1,100万以上もの信号を受信し、その中から脳が40要素ほどを抽出して処理しているという研究結果を発表しています。歩行中にトラックが急に自分に向かって走ってきたときに、右に避けるか左に避けるかを瞬時に判断して行動できるのは、こうした目と脳の優れた情報処理能力のおかげというわけです。ウィルソンはこれを「適応的無意識」と名づけました。
この適応的無意識が、初対面の相手に対しても働くのです。
もう一つ、ハーバード大学のナリニ・アンバディとロバート・ローゼンタールが行なった実験結果も紹介しましょう。
彼らは学生たちに、教師の授業風景を撮影した動画を、音声を消した状態で10秒間見せました。すると学生たちは、その教師の力量を瞬時に判断しました。しかも、動画を見せる時間を5秒に短縮し、さらに2秒に短縮しても、判断は変わりませんでした。
「第一印象は1秒で決まる」という言い方が大げさではないことが、わかっていただけたでしょうか。
相手から「この人は頼りなさそうだな」「信頼できそうにないぞ」といったネガティブな第一印象を抱かれてしまうと、その印象を覆すのは簡単なことではありません。
「次に会ったときに挽回しよう」と思っても、営業などの仕事の場合は、第一印象が悪いと、二度と会ってもらえない可能性が非常に高いでしょう。
仕事が成功するかどうかは第一印象で決まり、第一印象は最初の1秒で決まるということを、いつも意識しておいてください。
驚愕!15m先からでも姿勢を見られている
では、最初の1秒間で第一印象を良くするには、どうすればいいのでしょうか。
外で待ち合わせをしているときや、長い廊下で出迎えを受けたときなどに気をつけてほしいのが、姿勢です。
人は、「背筋がちゃんと伸びていて元気が良さそうだな」とか「背中を丸めてトボトボと歩いていて、自信がなさそうだ」というように、相手の姿勢や歩き方によって、第一印象を大きく変えます。しかも、15mぐらい離れた距離からでも、姿勢や歩き方はわかります。
「姿勢に気をつけるのは、相手に近づいてからでいいや」と考えるのは大間違い。あなたが相手に意識を向けるずっと前から、相手はあなたを見ています。
当たり前のことですが、背筋はしっかりと伸ばして歩くようにしましょう。背筋を伸ばすには筋力が必要です。筋力がないと、重い頭を支え切れなくなり、頭部が前にだらしなく出る姿勢になります。そうならないためには、日頃から腹筋や背筋を鍛えておくことも大事です。
また、歩幅も重要です。人は、落ち込んでいるときや体調が悪いとき、人に会いたくないときには、歩幅が狭くなります。だから、相手に好印象を抱かせたいなら、少し広めの歩幅で歩く必要があります。
私がかつて大学生を対象に行なった計測では、男性は60cm、女性は55cmの歩幅で歩くと、元気に見えました。これぐらいの歩幅を目安に歩きたいものです。
人と会う前に表情筋の準備運動をしよう
相手との距離が5~6mにまで近づくと、今度は、相手はあなたの表情に意識を向けます。表情から、「優しそうな人か、怖そうな人か」「信頼できそうか、頼りなさそうか」「自分に好意を抱いているか、警戒しているか」などを読み取るのです。
このとき、一番避けなくてはいけないのが、無表情です。「自信がない人」や「やる気がない人」と見なされます。
無表情の人は、目に力がなく、焦点も定まっていません。また、目以外の表情筋の動きが止まっています。
こうならないためには、まず、上まぶたの筋肉「上眼瞼挙筋」に力を入れ、上まぶたを強く引き上げ、目を大きく見開きます。そして、「あなたに会えて嬉しいです」という気持ちを目に込めます。すると、口の両サイドにある表情筋の一つである「口角挙筋」も一緒に2cmほど上がり、とても自然な笑顔になります。
面白いのは、こちらが笑顔で相手に接すると、相手も無意識のうちに笑顔になり、場の雰囲気が良くなることです。
これは、ミラーニューロンという脳内の神経細胞の働きによるものです。
ミラーニューロンは、他者の行動を見たときに、その行動を自分がしたときと同じように活性化します。例えば、誰かがご飯を食べている姿を見たときに、自分もご飯を食べているかのように反応するわけです。
ですから、こちらが嬉しそうな表情や楽しそうな表情を相手に向ければ、相手のミラーニューロンが活性化して、相手も嬉しい気分や楽しい気分になり、自然と笑顔になります。
すると、相手の笑顔を見て、今度は自分のミラーニューロンが活性化し、こちらもさらに笑顔になります。笑顔の相乗効果が起きるわけです。
逆に、固い表情で相手に接すると、相手の表情や気分もどんどん固くなっていきますから、要注意です。
とはいえ、笑顔で接することが大事であることはわかっていても、人見知りが激しい人やあがり症の人は、表情が固くなりがちです。そんな人には、相手に会う前に「表情の準備運動」をしておくことをお勧めします。
例えば、初対面の相手と大事な商談をしなくてはいけないときは、誰でも緊張するものです。そんなときは、相手先の会社があるビルの中に入ったら、まずトイレに飛び込みます。そして、誰も見ていないところで、顔にある表情筋を思いっきりギュッと収縮させ、今度は逆にパッと大きく広げましょう。これを繰り返すうちに、表情筋が動きやすくなり、豊かな表情を作ることができるようになります。
緊張すると顔が能面のようになってしまいがちな人は、ぜひ試してみてください。
距離感が大事!パーソナルスペースに踏み込みすぎない
「第一印象は1秒が勝負」とお話ししましたが、もちろん最初の1秒だけ頑張れば、あとは気を抜いても大丈夫というわけではありません。
そもそも、こちらが最高の笑顔を相手に向けたとしても、相手がこちらの顔を見てくれない可能性もあります。うつむいたままで、目も合わせずに名刺交換をして、席に座ってからやっと相手の顔を見る、という人もいます。
ですから、正確には、「第一印象は、相手が自分の顔をちゃんと見始めてから1秒が勝負」です。
挨拶や名刺交換をする場面で注意しておきたいのが、相手との対人距離の取り方です。
人には「自分の空間=パーソナルスペース」があり、親しくない人にズカズカとパーソナルスペースに踏み込まれることに抵抗感を抱きます。
私が得た情報では、したところでは、初対面の場合、日本人男性のパーソナルスペースは平均108cm、女性は平均118cmでした。
パーソナルスペースの広さは国や文化によって大きく異なり、米国の文化人類学者であるE・T・ホールの調査では、米国人の平均は366cmだそうです。
また、低年収より高年収の人のほうが、接客業や営業職などの対人業務に就いている人よりも作家や画家といった一人で仕事をしている人のほうが、より広いパーソナルスペースを求めるという研究結果も出ています。
人は「自分のパーソナルスペースに踏み込まれた」と感じると、無意識のうちに、すっと後ろに身体を引いたり、笑顔が消えたりします。こうした様子が相手に見られたら、自分のほうから一歩引いて距離を置くようにしましょう。
理想のアイコンタクトは1分あたり32秒以上
席に座って、相手との会話が始まってからも、やはり大切になるのは表情です。基本は笑顔ですが、相手が悲しい話やつらい話をしているときは、こちらも相手の表情に合わせるようにしましょう。
その際に心がけたいのは、相手の発言に反応しながら、驚いた表情をしたり、微笑んだり、思いっきり笑ったりというように、表情を豊かに変えていくことです。すると相手は、「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれている。興味を持ってくれている」と感じて、あなたに好感を抱き、もっと話したいと思うようになります。目安としては、1分間のうち、28秒以上は表情筋を動かして、表情を変えるようにしてください。
また、アイコンタクトを取りながら話を聞くことも大事。理想のアイコンタクトの長さは、1分間あたり32秒以上です。
ただし、黒目の中心をずっと見ていると、相手は威圧感を感じてしまうので、逆効果です。相手の右目と左目の目尻と、鼻の縦2分の1のところを線で結んで二等辺三角形を作り、その部分を見るようにすれば、相手は威圧感を覚えることなく、自分をちゃんと見てくれていると感じます。
もう一つ重要なのが声です。ナリニ・アンバディは、声に威圧感がある医師は患者から訴えられやすく、声に温かみのある医師は訴えられにくいという研究報告をしています。
自分の声を録音するなどして、普段、どんな声を発しているか、チェックしてみましょう。
仕方ない?相手のタイプに合わせて振る舞い方を変えよう
人には相性があります。同じように接しても、相手から好印象を抱かれることもあれば、悪い印象を抱かれることもあります。
そこで、相手のタイプに合わせて振る舞い方を少し変えてみるのもいいでしょう。
例えば、辣腕のワンマン社長と会わなくてはいけない場面があったとします。
こうした人は支配欲求が強いですから、こちらもパワフルさを前面に出して張り合おうとすると、相手と対立してしまうことになります。
仲良くなってからであれば、気の強い者同士で相性が噛み合うこともありますが、初対面のときは、張り合うのは避けたほうが賢明です。必要以上に胸を張ったり、鋭い目で見たりしないようにしましょう。
逆に、相手が年下や目下で、教えを請いに来ている場合などは、少し胸を張り気味にするなどして、頼りがいがある人物を演じます。
こうしたことをするためには、相手がどんな人物で、自分に何を求めているのか、事前のリサーチやイメージングが不可欠になります。ちょっと上級者向けのテクニックですから、まずは「背筋を伸ばし、広めの歩幅で歩くこと」と「笑顔を基本に、豊かな表情で相手と接すること」という基本から始めてみてください。これだけでも、あなたの第一印象がぐっと良くなるはずです。